幻想と静謐を版に刻んだ孤高の孔版画家
福井良之助(ふくいりょうのすけ)は、戦後日本の洋画界と版画界で独自の表現を確立した作家であり、孔版(ステンシル)という技法を通じて、淡く静謐な色調の世界を描き出しました。
東京・日本橋に生まれ、東京美術学校では鋳金を学びながら油彩にも取り組み、戦後は太平洋画会・自由美術家協会・国際版画展などを舞台に活躍。
雪景色や舞妓、女性像などに幻想性と詩情を重ねたその表現は、版画というメディアの可能性を押し広げ、海外でも高く評価されました。
⚫︎1923年、東京市日本橋に生まれる。
⚫︎1944年、東京美術学校(現・東京藝術大学)工芸科鋳金部を卒業。
⚫︎1946年、第41回太平洋画会展に《みちのくの冬》を出品し一等賞受賞。
⚫︎1954年、自由美術家協会展で佳作賞を受賞。
⚫︎1959年、日本橋画廊にて第1回孔版画個展を開催。以後、版画家として注目を集める。
⚫︎国際版画展・現代日本美術展などに出品し、国内外で評価を確立。
⚫︎1986年、神奈川県相模原市にて死去(享年62)。
福井の作品は、油彩と孔版という異なるメディウムを使い分けながらも、どちらも共通して「静けさ」と「幻想性」を軸とした詩的な表現に貫かれています。
⚫︎孔版による淡く繊細な画面構成
ステンシルの技法を駆使し、刷りの“にじみ”や“抜け”を意識した絵肌が独特の空気感を生む。
⚫︎雪景、舞妓、女性像に宿る幻想的な気配
とくに1950年代に多く描かれた舞妓シリーズでは、構図・色調ともに夢のような余白と静寂が漂う。
⚫︎淡い色調と簡素なフォルムの融合
モチーフを極限まで削ぎ落としつつも、印象は濃密。東洋的な美意識と西洋画法の交差点に立つ作風。
●《みちのくの冬》(1946年)
太平洋画会展一等賞受賞作。東北の寒村風景を詩情豊かに描いた初期の油彩作品。
●《舞妓》(1950年代シリーズ)
孔版による代表作群。柔らかな線と色面で、幻想的な女性像を表現。
●《雪》《静物》《冬の少女》
色数を抑えた作品の中に、時間や感情を封じ込めたような名品群。
福井良之助の作品は、孔版という特殊技法の作家としてコレクターの注目を集めており、特に舞妓シリーズや雪景色の作品は国内外で根強い人気があります。
⚫︎孔版画:20万〜80万円前後(サイズ・内容・サイン有無による)
⚫︎油彩作品:50万〜200万円前後(画題・保存状態・展覧会履歴により)
⚫︎舞妓シリーズや雪の風景は評価安定。海外オークションでの出品例も。
福井良之助は、油彩と版画という異なるメディウムの中で、一貫して「静けさの美」を探求した詩人のような画家でした。
彼の作品に漂うのは、沈黙の中に響く音、冬の気配、見えないものの気配です。
舞妓の横顔に、雪の道に、果物の影に――。
そこに宿る淡く儚い時間こそが、福井良之助の本質であり、現代の私たちが忘れかけた詩の気配そのものです。
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