吉田克朗(よしだ かつろう、1943–1999)は埼玉県深谷市生まれの現代美術家です。1960年代末、日本の戦後美術に新たな地平を開いた「もの派」の中核作家として活動しました。多摩美術大学で斎藤義重に師事し、1968年卒業後は関根伸夫、菅木志雄、小清水漸らとともに制作を行い、「もの派」形成に寄与しました。1970年の「第1回ソウル国際版画ビエンナーレ」大賞受賞、1971年のパリ青年ビエンナーレ出品、文化庁芸術家在外研修員としてロンドン滞在など国際的にも活躍。1999年に逝去しましたが、2024年には大規模回顧展が開催され、作品と活動が再評価されています。
《Cut-off (Paper Weight)》《Cut-off (Hang)》(1969年)
「かげろう」シリーズ(1980年代)
「触」シリーズ(1980年代後半〜)
吉田克朗は、もの派の重要な存在として戦後日本美術史に大きな影響を与え、物質性の追求と抽象的身体表現の両面で独自の地位を確立しました。2024年の回顧展では未公開資料や再制作作品を通じて、作品の多様な側面が再発見されています。
1969年から1971年のもの派時代には、石や木、紙、ロープなど自然素材の特性を活かした立体作品を制作。代表作《Cut-off (Paper Weight)》や《Cut-off (Hang)》は物質そのものの存在感を際立たせています。1970年代以降は絵画と版画へと表現の幅を広げ、赤を基調とした実験的手法で風景や写真を題材にした作品群を発表。1980年代には「かげろう」シリーズで風景や人体を抽象化し、後半の「触」シリーズでは粉末黒鉛を手指で擦り付けることで身体性と触覚性を画面に表現しました。
吉田克朗は、もの派の先駆者として物質性を極限まで追求した後、絵画と抽象表現へと革新的に展開した日本現代美術の重要な作家です。彼の制作は戦後美術史の転換点に位置し、今後も国内外での評価と研究が進むことが期待されています。