前衛と詩情を同居させた、短命のイマジネーション画家
古賀春江(こがはるえ)は、大正から昭和初期にかけて活躍した日本の洋画家であり、日本におけるシュルレアリスム(超現実主義)の先駆者として美術史に特筆される存在です。
彼の作品には、現実と夢、幾何と感情、そして詩と絵画が入り混じり、ひとつの静かな異界が立ち上がっています。
活動期間は短かったものの、キュビスム・未来派・シュルレアリスムといった欧州前衛芸術の動向をいち早く取り入れ、独自に咀嚼して再構築した画風は、同時代の日本画壇に大きな衝撃を与えました。
幻想的で不思議な空間構成を、確かな造形力で成立させる彼の作品群は、今なお新鮮な感覚で鑑賞者を惹きつけます。
1895年、福岡県久留米市に生まれる。本名は亀雄(よしお)。幼少期から体が弱く、絵画や読書に親しむ生活の中で芸術への道を志すようになります。
地元で洋画家・松田実に師事した後、15歳で上京。太平洋画会研究所や日本水彩画会研究所で洋画を学びました。
初期は水彩による写生を中心に活動していましたが、やがて油彩を中心とした造形へと移行。キュビスム、未来派などを取り入れながら、1920年代には日本でも稀なシュルレアリスム的表現に挑み始めました。
1922年、《埋葬》で第9回二科展二科賞を受賞。その後も前衛的作品を発表し続けますが、体調の悪化や神経疾患に苦しみながら1933年、38歳で逝去。
短い生涯でありながら、彼の絵画は日本近代美術の中に確かな足跡を残しました。
古賀春江の画風は、初期の写実的・装飾的な水彩画から始まり、次第にキュビスム、未来派を通過して、1920年代中盤以降には幻想的な構成と幾何学的な形態が融合するシュルレアリスム的世界へと進化しました。
その表現の特徴は、現実のモチーフと空想的要素の融合にあり、雑誌の挿絵や絵葉書、機械的構造や幾何的パターンを組み合わせて、どこか夢の中のような、不条理と美が交錯する空間を描き出しました。
また彼は、絵画だけでなく詩にも才能を発揮し、自作の詩を添えた画集を制作するなど、詩画一体の表現者としても知られています。
●《埋葬》(1922年)
第9回二科展で二科賞を受賞した代表作。人物と装飾的構成が緊張感のある画面を構成し、彼の初期の様式と前衛性を示す。
●《海》(1929年)
幻想的な空間に静物や機械的構造が漂う、古賀春江後期の代表作。東京国立近代美術館所蔵。
●《窓辺》《飛ぶ魚》《機械仕掛けの庭》
幾何学的構成と幻想性が融合した作品群。夢・死・記憶といった主題を静かに可視化している。
古賀春江の作品は、活動期間が短く現存数も限られるため、学術的・美術史的価値の非常に高い作家として評価されています。
代表的な油彩作品は国立・公立美術館に収蔵されており、民間市場に出回ることは極めて稀ですが、デッサンや小品、水彩画などで出品された場合は高額となり、数百万円〜数千万円規模の評価を受けることがあります。
詩画一体の作品や、自筆詩稿・スケッチも資料的価値が高く、美術館・研究機関からの需要が年々高まりつつあります。
現在、以下のような条件を満たす古賀作品は特に高評価を受けています。
●1920年代の油彩・水彩作品(幻想・幾何構成・静物含む)
●雑誌・画集・詩画集に掲載された来歴明瞭な作品
●二科展出品作またはその関連下絵・草稿類
●詩文が添えられた原稿・ドローイング
●保存状態の良好なスケッチ帳・未発表資料(文化史的価値あり)
古賀春江の絵は、物語を語らずに夢を描く。
幾何と詩、構成と感情、機械と魂、すべてが静かに溶け合う、唯一無二の幻想空間です。
38年という短い生涯のなかで、彼が私たちに遺したのは、「見ることを超える想像力」そのものでした。
ご自宅やご実家に古賀春江作品をご所蔵の方は、ぜひ専門家によるご査定をご検討ください。