洋画に詩情と構築美を宿した静謐なる写実の巨匠
小磯良平(こいそりょうへい)は、大正から昭和にかけて日本洋画界を牽引した画家であり、人物画、特に女性像において格調高く洗練された画風で知られています。
アカデミズムに基づく緻密なデッサン力と、フランス近代絵画の構成感覚を融合させ、静けさと抒情性を漂わせた画面は、今日に至るまで多くの人々に愛されています。
東京美術学校(現・東京藝術大学)在学中より帝展で受賞を重ね、1930年にフランスへ留学。帰国後は新制作派協会の結成に参加し、戦後は東京藝術大学の教授として後進を育成。晩年まで旺盛な制作を続けました。
神戸に建つ「小磯記念美術館」では、彼の生涯にわたる作品世界とともに、その精神性に触れることができます。
1903年、兵庫県神戸市に生まれる。
1926年、東京美術学校西洋画科を首席で卒業。同年、第7回帝展に初出品・初入選。
1930年、渡仏。パリのグランド・ショミエールで学びながら、ロダン美術館やルーヴルなどを巡り、近代フランス絵画に影響を受ける。
1936年、新制作派協会の創立に参画(後の新制作協会)。
1949年、東京藝術大学教授に就任。後進の育成に尽力する。
1962年、芸術院会員。1979年、文化勲章受章。
1988年、死去(享年85)。その業績を記念し、神戸に小磯記念美術館が開館(1992年)。
小磯の画風は、アカデミズムに基づく正確な素描と静謐な構成力に支えられたもので、特に女性像や室内画にその特質が顕著です。
⚫︎緻密なデッサンと構築的構図
東京美術学校で鍛えられたデッサン力と、フランス留学時に身につけた構成美が融合した、計算された画面構成。
⚫︎静謐な女性像
モデルの佇まいを重視し、過度な感情表現を避けながらも、画面に深い内省と優美さを宿す表現。
⚫︎フランス近代絵画からの影響
マティスやセザンヌ、ロートレックらから構成感覚や色面処理を学びつつ、独自の抑制された色調へと昇華。
⚫︎時代の中の普遍を描く姿勢
戦時中は報道画も手がけつつ、人間や都市の静けさの中にある普遍的な美を探求し続けた。
●《デッサンをする女》(1930年)
留学中のパリで描かれた代表作のひとつ。構成と筆致のバランスが絶妙で、以後の作風の基盤となる。
●《婦人像》(戦後)
整った構図の中に静かな気品が漂う。小磯らしい抑制の美が結晶した作品。
●《三人の像》(1960年頃)
3人の女性を左右対称に配置した構図で、古典的バランスと現代的な人物描写を融合。
●《音楽を聞く人》(晩年)
日常のワンシーンを、形式感のある構図で描いた静謐な作品。
小磯良平の作品は、日本洋画壇における重鎮として、その学術的価値と市場性を兼ね備えた作家として高く評価されています。
特に戦前〜戦後初期の油彩作品や、人物画の完成度が高いものは安定した需要があり、美術館・個人コレクターの双方から支持を得ています。
⚫︎油彩作品(人物画・サイズ中以上):300万〜1,000万円前後
⚫︎小型作品(風景・静物):100万〜300万円
⚫︎素描・デッサン:30万〜100万円前後
特に展覧会出品作や図録掲載作品は市場評価が高く、今後も安定的な価値を維持すると見られています。
小磯良平の絵画は、喧噪を排した静けさと、人物の内奥に宿る詩情とが、見事なバランスで共存しています。
過剰に語らず、しかし確かに伝える。その寡黙な美意識こそが、小磯芸術の本質です。
西洋の伝統と東洋の精神が交差する地点で、人物像を通して“普遍”を描いた画家——
小磯良平の作品と対峙することは、美の構造と、静けさの奥にある「かたち」を見つめる旅でもあります。
静謐なる人物画の巨匠/油彩・素描作品のご相談承ります。