猫と日常に詩情を宿した静謐なる幻想画家
荻窪と猫を愛し、詩的な日常を描いた洋画界の異才
長谷川潾二郎(はせがわりんじろう)は、昭和期の日本洋画界において、猫や静物、静かな風景といった身近な題材に独自の詩情と幻想性を吹き込んだ異色の画家です。
淡々とした筆致、浮遊感のある構成、そして抑制された色調のなかに、どこか夢のような余韻を残す作品群は、観る者の心にそっと語りかけてきます。
探偵小説を「地味井平造」の筆名で執筆するなど、文学的感性も併せ持ち、絵画表現においても写実と幻想のはざまを自在に漂うような独特の空気感を築き上げました。
1904年、北海道函館市に生まれる。旧制函館中学(現・函館中部高校)を卒業後、1924年に上京し、川端画学校にて絵の基礎を学びました。
1931年にはパリに渡り、アパートの一室をアトリエにして《巴里の裏町》《荻窪風景》など、都市の静かな断片を描いた作品を残します。
帰国後、1933年に二科展に初入選し、以後長く二科会で活動。昭和初期には父の援助で荻窪にアトリエ兼住居を構え、都市郊外の静かな日常風景を題材とした作品を数多く制作しました。
家庭環境にも恵まれ、家族には文芸関係者が多く、生活に不安が少なかったことから、商業主義や名声からも距離を置き、「静かに、真摯に描くこと」に徹した画家でもあります。
長谷川の作品の特徴は、静かで端正、そしてどこか浮遊感のある描写にあります。
一見写実的でありながら、構図の中に現実のようで非現実的な空気が漂い、観る者に不思議な余白を感じさせます。
猫、静物、窓辺の風景、荻窪の町並みなど、主題は身近なものばかりですが、そこに漂う空気にはセンチメンタルを排した冷静な詩情があり、シュルレアリスムやマジックリアリズムにも通じる感覚が表れています。
とくに《猫》をモチーフにした作品群は人気が高く、その無表情かつ無垢な姿には、長谷川ならではの“距離感”と“存在感”が宿っています。
●《荻窪風景》
帰国後の代表作。都市郊外の空気感と静けさを、構成と色調によって緻密に描写した傑作。
●《巴里の裏町》
パリ滞在中に描かれた作品。絵画的構成と写実性のあいだに、幻想的な雰囲気が漂う。
●《猫》《猫と椅子》《猫と窓》
静物としての“猫”を徹底して観察し、浮遊する空気と存在の密度を表現した人気シリーズ。
長谷川潾二郎の作品は、市場において「静かな人気」と「根強い支持層」を持つ画家として知られています。
油彩作品は流通数が限られるため希少性が高く、真筆・保存良好な作品は500万〜2,000万円超の評価がつくこともあります。
特に《猫》シリーズや荻窪風景を主題とした作品は、美術館所蔵品との類似性や構図的完成度によって高い市場評価を得ています。
また、スケッチや習作でも、長谷川らしい構図・筆致が見られるものはコレクターの注目対象となっています。
以下のような条件の作品は特に高評価を受けています。
⚫︎1930年代以降の荻窪風景・猫モチーフ・静物作品
⚫︎二科展出品作や美術館収蔵作と類似構図のもの
⚫︎保存状態の良好な油彩・水彩作品(サイン・裏書あり)
⚫︎パリ滞在期作品(1931〜32)の真筆画
⚫︎小説家「地味井平造」名義での挿画や資料とのセット出品も注目対象に
長谷川潾二郎の作品は、激しく語ることはありません。
しかしその静けさの中には、時代や都市のもうひとつの顔がそっと息づいています。
猫の目線、窓の奥の光、椅子の影——
彼が描いたものは、ただの風景ではなく、“記憶と心の輪郭”でもあったのです。
写真で簡単査定/猫・静物・荻窪風景・戦前期作品も対応可能