原色と厚塗りで「黒川能」を描き続けた魂の洋画家
100歳を超えて描き続けた重厚なる精神の画家
森田茂(もりたしげる)は、明治・大正・昭和・平成をまたぎ、原色と厚塗りの筆致で日本の精神を絵画に封じ込めた洋画家です。
茨城県下館町に生まれ、熊岡美彦に師事。東光会を舞台に精力的に発表を続けながら、小学校教員としても社会と密接に関わる誠実な画業を歩みました。
1960年代以降は東南アジアの風景や山形・羽黒地方の郷土芸能「黒川能」に魅せられ、肉体的な絵具の塗り重ねと精神性の深さを両立させた独自の表現様式を確立。
その画業は、100歳を超えてもなお止まることなく続きました。
1907年、茨城県下館町に生まれる。茨城県師範学校卒業後、小学校教員として勤務しつつ、熊岡美彦主宰の熊岡洋画研究所で洋画を学ぶ。
戦後は熊岡らとともに東光会に参加し、以後一貫して同会を主な発表の場としました。
1965年、東南アジアを巡遊した際に風土と色彩の強烈な印象を受けて風景画へと展開。
1966年、旅先で出会った山形県羽黒地方の伝統芸能「黒川能」に深い感銘を受け、その荘厳な世界観をライフワークとして描くようになります。
1970年、《黒川能》を題材とした作品で日本芸術院賞を受賞。
以後、能の演者や精神性に深く肉迫した連作を通じ、画家自身も能を演じるまでに至るなど、その関わりは極めて深いものとなりました。
86歳で文化勲章を受章。2009年、101歳で逝去するまで、生涯現役を貫いた洋画家です。
森田茂の作風は、画面を覆い尽くすような厚塗りと、原色に近い強烈な色彩の使用にあります。
初期は人形や人物を描いた静かな写実が中心でしたが、後にアジアの風景や郷土芸能へと主題を転換。とくに「黒川能」を描いた作品群は、宗教的儀式に近い精神性の表現として高い評価を受けています。
絵具を重ねるように、自身の体験・信仰・土地の風土を一つの画面に閉じ込めていく重厚な筆致。その構成と色面は、観る者に圧倒的な“重さ”と“気配”を伝えます。
●《黒川能》シリーズ
神仏習合の芸能「黒川能」を題材にした代表的連作。面をかぶる演者の姿に内的精神を重ねた大作群。
●《少女像》《東南アジア風景》
戦後から60年代の作品。人物と風景に原色の感情が重ねられ、後の作風の端緒を感じさせる。
●《能面と僧》《羽黒の祈り》
晩年に描かれた宗教性の強い作品。形象は単純化され、色と面による精神表現が極まる。
森田茂の作品は、晩年の黒川能シリーズを中心に非常に高い評価を受けており、文化勲章受章作家の中でも市場評価が安定しています。
特に真筆の油彩大作は希少で、内容・構図・来歴によっては1,000万〜4,000万円級の価格帯で流通しています。
また、教育機関や能関連団体、美術館からの収蔵ニーズも高く、記念館や地方文化施設との連携も進んでいます。
特に以下のような作品は高く評価されています。
⚫︎1970年代以降の《黒川能》連作(肉筆・大作・展覧会出品歴あり)
⚫︎東南アジア風景・初期人物画で厚塗り構成の油彩
⚫︎サイン・裏書明確な真筆、特に東光会系の受賞作・資料付き作品
⚫︎教育者としての著作・技法書と関連する制作スケッチ
森田茂は、人生をかけて一つの芸能と対峙し、そこに宿る精神性を絵画として昇華しました。
重ねる絵具の下にあるのは、土地と人、伝統と祈り、そして芸術への純粋な畏敬です。
その筆致は、まるで能の舞台のように、静かに燃え上がる内なる声を今も語り続けています。
写真で簡単査定/能・厚塗り・精神性の真筆対応