筆跡と余白に東洋の詩情を宿した構成派画家
菅野圭介(すがのけいすけ)は、戦前から戦後にかけて活躍した日本の洋画家で、独立美術協会を舞台に独自の構成美と筆致を探求した画家です。
旅を通じて絵画を深め、世界各地の風土と精神に触れながら、東洋的な簡潔さと西洋的構成感を融合させた独自のスタイルを確立しました。
ときにワンパターンと揶揄されながらも、自らの絵画哲学を貫き、晩年は画商に頼らず自ら作品を売るなど、表現と生き方の双方で独立を貫いた画家です。
●1909年4月27日、東京府(現・東京都新宿区)に生まれる。父は早稲田大学英語文学教授。
●京都帝国大学に入学するも、1933年に除籍。絵画に本格的に傾倒。
●1936年、第6回独立美術協会展にて初入選。その後、独立美術を中心に活動。
●戦前・戦後を通じて、ヨーロッパ・アジア各地を巡遊し、旅先でのスケッチや作品制作を重ねる。
●1948年〜1953年、洋画家・三岸節子と事実婚状態にあったが破局。1954年、須藤美玲子と結婚。
●筆触を残した構成的な描画と東洋的な余白・抒情を融合した画風を展開。
●晩年は画商との関係悪化から自ら販売を行い、独自の表現を貫く。
●1963年3月4日、食道がんにより死去(享年53歳)。
1990年以降、各地の美術館で再評価が進み、回顧展が開催される。
菅野圭介の絵画は、構成主義的な形式感の中に、にじむような筆触や余白の取り方によって、東洋的な情緒や詩情を感じさせる独自の境地を確立しています。
●筆跡を活かした構成主義的画面
勢いのあるタッチと大胆な省略が印象的。モチーフは簡潔で構成感が強く、リズムのある空間構成を得意とする。
●旅を通じた風土の取り込み
ヨーロッパ、アジアなど各地の旅先で制作された作品群には、土地の色や空気感が反映されている。
●東洋的な間と詩情
静けさと省略を重視した画面づくりは、日本的な余白の美意識とも共鳴している。
●晩年の自律的な制作態度
画商に頼らず、評価や売れ行きに左右されずに描き続けた姿勢も、作品に内面的強度を与えている。
●《道のある風景》《赤い壁》《窓辺》
モチーフを絞り込み、静謐な空間の中に筆跡のリズムが広がる構成的な代表作群。
●《旅行風景》《トルコの道》《パリの空》など
世界各地の滞在先で制作されたスケッチ風の作品は、即興的な勢いと土地の色彩感が特徴。
●《無題》シリーズ
具体的モチーフをもたず、抽象的構成と絵具の質感で勝負した晩年の傑作。
菅野圭介の作品は、再評価が進む中でコレクター層に注目されており、特に1950年代~60年代初頭の代表作は高く評価されています。
●油彩作品:80万〜250万円前後(構成の完成度・時期により差異あり)
●小品・紙作品:20万〜80万円前後(スケッチ風・旅先の作品が人気)
●展覧会出品歴や、再評価後に図録掲載された作品は安定して評価される傾向
菅野圭介は、形式と筆致、構成と詩情、そして旅と日常を作品の中に融合させた画家でした。
表現の芯をぶらさず、批判にも迎合せず、独自の「描きのリズム」を信じて描き続けた姿勢は、まさに表現と生き様の一致と呼ぶにふさわしいものです。
構成的なのに温かい。抽象に見えて、どこか懐かしい。
その絵画は、静かに語りかけてくる「描くことの自由」そのものです。
構成と詩情の画家/独立展出品作・再評価作品のご相談承ります。