透明な光の中に静寂を描いた抒情の具象画家
松田正平(まつだしょうへい)は、戦後日本の洋画界において、具象絵画の精神性と絵肌の美しさを深めた画家です。
油彩という重厚な素材の中に「光」や「空気」を感じさせるその表現は、抽象画が主流となる時代にあってなお、多くの支持と共感を集めました。
山口県宇部市で育ち、藤島武二の教えを受けて東京美術学校を卒業後、戦前のパリで留学を経験。戦後は国画会を中心に活動し、60歳を過ぎてから注目を浴びた“遅咲きの名匠”でもあります。
⚫︎1913年、島根県鹿足郡青原村(現・津和野町)に生まれ、幼少期を山口県宇部市で過ごす。
⚫︎東京美術学校(現・東京藝術大学)西洋画科にて藤島武二に師事。油彩画を学ぶ。
⚫︎卒業後、フランス・パリへ留学。ヨーロッパ美術を吸収するが、第二次世界大戦の勃発により帰国。
⚫︎戦後は国画会にて作品を発表。1951年には国画会会員となる。
⚫︎1950年代より東京・フォルム画廊で個展を継続開催。
⚫︎1980年代以降、独自の油彩表現が評価され、1984年に第16回日本藝術大賞を受賞。
⚫︎1995年、郷里・宇部に制作拠点を移し、風景を描き続けた。
⚫︎2004年、腎不全により逝去(享年91歳)
松田の絵画は、筆致を極限まで抑え、色と空気がしみ込んでいくような「薄塗りの油彩」が大きな特徴です。
具象絵画でありながら、物の存在そのものというよりも、“それがそこにあることの気配”を描いた作品群は、深い余白と静寂を湛えています。
⚫︎光と空気を内包する薄塗りの油彩技法
厚塗りを避け、絵の具の透明感を生かした画面構成。モチーフが画面に“浮かぶ”ような印象。
⚫︎「周防灘」シリーズに見る風景へのまなざし
日常の風景、海辺、室内などに目を向け、写実を超えた“情景”として再構成。
⚫︎静けさと温もりをあわせ持つ抒情性
女性像や静物にも、見る者の感情を優しく映すような静謐さが漂う。
⚫︎《周防灘》シリーズ
瀬戸内海に臨む風景を主題に、海と空と陸が溶け合うような構成で描かれた代表作群。
⚫︎《椅子のある部屋》《帽子》《青い窓》など
室内風景や小物に焦点を当て、時間が静かに流れていることを感じさせる作品。
⚫︎《裸婦》《少女》
人物も対象化せず、やわらかな輪郭と空気の層で包むように描かれている。
松田正平の作品は、その静かな抒情性と技術的完成度から、国内外で根強い評価を受けており、特に「周防灘」シリーズや晩年の静物・風景画は市場でも高い人気を誇ります。
⚫︎油彩作品:100万〜500万円前後(サイズ・シリーズ・発表歴により変動)
⚫︎ドローイング・素描:30万〜80万円前後
⚫︎画廊・美術館との関係が深く、フォルム画廊・山口県立美術館などでの展示作品は評価が高い
松田正平の絵は、モチーフを描くだけではなく、「空気を描く」ことに挑んだ美術です。
戦後の喧噪や抽象全盛の潮流に抗うように、あくまで静かに、あくまで具象として、淡い色と薄い絵の具の中に詩を溶かし続けました。
見るという行為を通じて、生きてそこにあるという存在の在り方を見つめる。
それは、油彩がなし得る最も繊細で尊い表現のひとつです。
静かな風景・周防灘シリーズなどご相談ください。