ヨーロッパを歩き、暮らしの美を描いた街角の観察者
西欧都市と庶民生活を描いた静謐の構成画家
児玉幸雄(こだまゆきお)は、大正・昭和・平成の三時代にわたって活躍した洋画家であり、
特に戦後日本の具象洋画界において、フランスをはじめとする西欧の街角と人々の暮らしを鋭く、穏やかに描いた観察者として知られています。
堅牢なマチエール(絵肌)と繊細な色面構成による作品は、ヨーロッパの町並みを詩的かつ構築的にとらえ、
一貫して庶民の生活を静かに見つめ続けた、具象表現の誠実な実践者でした。
1916年、大阪市に生まれる。関西学院大学経済学部在学中に油彩に惹かれ、
1936年に関西美術展で初入選、1937年には二科展にも初入選し、画家としての第一歩を踏み出します。
同時期、洋画家・田村孝之介に師事し、構成的具象画への志向を深め、
戦後の1947年には二紀会の創立に参加、その後も同人・委員として中心的に活動。
1957年、初の渡欧。以降、フランス、イタリア、スペインなどヨーロッパ各地を取材し、街角の風景と人々を題材に制作。
1970年代には東京・大阪を中心に多数の個展を開催し、1974年には二紀会監事・黒田賞受賞など画壇で高く評価されました。
1988年に二紀会を退会。1992年、75歳で逝去。
児玉の作品は、ヨーロッパの石造りの街路、広場、そしてそこに生きる人々の静かな営みを主題としています。
パリの裏路地、リヨンの市場、プロヴァンスの光――どれもが、重ねられた絵具と抑制された色調で構成され、
まるで風景そのものが「呼吸」しているかのような感覚を覚えます。
また、特徴的な堅牢なマチエールは、風雨にさらされる街並みの時間的堆積と物質感を見事に表現しており、
その中での人間の姿は控えめながらも、確かな存在として浮かび上がります。
⚫︎《パリの街角》
1960年代の代表作。薄明の石畳にたたずむ人影が、詩的な静寂を生む一作。
⚫︎《リヨンの青い市場》
明確な構成と柔らかな筆致で、庶民の営みを彩り豊かに描いた一枚。
⚫︎《モンマルトルの坂道》《地中海の屋根》
建築的な構成と柔らかな光の対比が、独自の静けさを生むヨーロッパ風景の名品群。
児玉幸雄の作品は、西欧風景・街角風景・市場などを主題とした油彩画を中心に、高い人気と安定した市場評価を誇ります。
特に1950年代以降の渡欧作品は希少性もあり、構成と絵肌の完成度により300万〜1,500万円級での取引も見られます。
また、サイズの小さな作品やスケッチも愛好家の間で根強い需要があり、国内外のコレクター・欧州在住日本人コレクター層などにも人気があります。
特に以下のような作品に高評価がつきやすい傾向です。
⚫︎1957年以降の渡欧作品(パリ・南仏・イタリアなど)
⚫︎二紀会出品歴のある真筆油彩作品(サイン・裏書明瞭)
⚫︎マチエールの厚みがあるヨーロッパ街角風景
⚫︎小品でも構成的完成度の高い色面作品
⚫︎スケッチブックや欧州滞在記録付き資料作品
児玉幸雄の画面には、静かに光る石畳、遠ざかる足音、ゆれる屋根の影が描かれています。
それは、街の騒がしさではなく、人の暮らしの呼吸を感じさせる世界。
観る者は知らず知らず、児玉の目線とともに、欧州の路地を歩いているのです。
写真で簡単査定/街角・風景・生活主題に幅広く対応