美術品の査定では「なぜ同じ作家の作品なのに価格がこんなに違うのか?」という疑問を持たれることがよくあります。その理由は、作品の評価が一律ではなく、いくつもの要素によって決定されるからです。
特に美術市場では、“見た目が似ている”ことと“価値が同じ”ことは必ずしも一致しません。
本記事では、美術品の査定額に大きな影響を与える5つの主要要素を詳しく解説し、資産としての価値をどう見極めるかをお伝えします。
査定に最も大きな影響を与えるのが“誰の作品か”という点です。
作家の知名度や、国内外での評価、オークションでの過去の落札実績が直接的な価格に結びつきます。
たとえば草間彌生や村上隆のように国際的にブランド化している作家の作品は、安定した相場と高い評価がついています。
逆に無名作家や市場に実績がない場合、たとえ技巧的に優れていても査定額は控えめになりやすい傾向にあります。
査定の際には、その作家がどの市場(国内・海外)で評価されているか、どの価格帯で取引されているかが基準になります。
同じ作家でも、サイズによって査定額は大きく異なります。
一般的には大きいサイズほど高く評価されやすいですが、作品ジャンルによっては例外もあります。
また、油彩・アクリルなどの一点物と、版画・リトグラフなどのエディション作品とでは価値基準が大きく異なります。
エディション作品の場合は、限定部数の少なさや、エディションナンバー、サインの有無なども重要な査定要素になります。特に“何をどう描いているか”よりも、“どの技法で、どれほど希少か”が市場では重視されます。
どれほど著名な作家の作品でも、保存状態が悪ければ査定額は大幅に下がります。
シミ、色褪せ、亀裂、キャンバスのたわみ、額装の劣化など、見た目に影響するダメージはすべて減点の対象です。
特に、湿度や直射日光にさらされた環境に長く置かれた作品は、表面だけでなく内部の劣化も進んでいる可能性があります。査定ではこうした外見と内部の状態をプロが確認し、修復の必要性や展示に適すかどうかも含めて評価されます。額装の状態も重要で、特に作家や画廊によるオリジナル額装の場合は、付属品としての価値が加算されることもあります。
作品の真正性を裏付けるために欠かせないのが、“証明書(Certificate of Authenticity)”と“来歴(プロヴェナンス)”です。これらがあるかどうかは、査定額において“数割単位”で差が出ることもあります。
証明書がない場合、市場では真作と認められず“参考作品”扱いになってしまうこともあり、評価は大きく下がります。
来歴とは、その作品が過去にどこで展示されたか、誰が所有していたかという履歴を指します。
有名ギャラリーでの取り扱いや、美術館での展示歴がある作品は、信頼性と評価が格段に高くなります。
美術品市場では“いま、この作家が注目されているか”という“旬”も査定に大きく影響します。
たとえば、展覧会開催中、テレビ・SNSでの露出、没後記念などによって市場評価が急上昇するケースは少なくありません。
また、NFT化やブランドとのコラボ、インフルエンサーによる紹介など、従来とは異なる価値の付け方も増えています。売却を検討する際には、こうした“注目度”を味方につけることで、査定額が1.5倍以上に跳ね上がることもあります。
査定額は単に作家名や技法だけで決まるものではありません。
「作品の状態」「背景となる証明」「その時の市場環境」など、複数の要素が重なって評価が決まります。
とくに現在のように美術品の価値が資産として注目される時代においては、これらの要素を正しく把握しておくことが極めて重要です。
アートビリオンでは、作品の情報や状態を丁寧に確認しながら、経験豊富な専門スタッフが総合的な視点で査定を行っています。「いくらで売れるのか」ではなく「なぜこの価格になるのか」を丁寧に説明することを大切にしています。
まずは一度、ご自身の作品がどのような要素を備えているのかを把握し、その価値を見直してみてはいかがでしょうか。