いま再評価が進む“日本女性洋画の源流
ラグーザ玉(ラグーザ・たま/旧姓:清原玉)は、明治初期から中期にかけて活躍した洋画家であり、日本人女性として初めて本格的に油彩技法を身につけた先駆的存在です。
イタリア人彫刻家ヴィンチェンツォ・ラグーザの妻として渡欧し、フィレンツェで西洋画を学んだ彼女の作品には、繊細な写実と深い内省性が宿っています。
長らく「洋画家の妻」という肩書で語られてきましたが、近年では独自の画業を持った作家として国内外で再評価が進み、展覧会や研究書でも紹介されるようになっています。
1861年、佐賀藩士・清原元周の娘として江戸に生まれた玉は、明治政府の招聘により来日したヴィンチェンツォ・ラグーザと出会い、結婚を機に1882年に渡欧します。
イタリアでは、フィレンツェの美術学校でデッサンや油彩技法を学び、写実主義を基盤にしながらも、日本女性ならではの感受性に満ちた作品を制作。 帰国後は、夫の没後も制作活動を継続し、明治美術会などに出品しながら、教育活動にも従事しました。
ラグーザ玉の作品は、人物・静物・風景とジャンルを問わず、丁寧な筆致と穏やかな陰影で構成されており、そこには西洋画法を基礎としながらも、日本女性ならではの繊細さと精神性が宿っています。
特に人物画においては、描かれた人物の内面に寄り添うような静謐なまなざしが特徴で、写実を超えた心理的な深みが感じられます。
また、静物画では構図や配色に慎ましさと品格が漂い、まさに「静けさを描く画家」として独自の存在感を放っています。
●《婦人像》
写実性と心理描写が融合した代表的人物画。構図のバランスと陰影の扱いに西洋画法の基礎が見られながらも、柔らかな表情には日本的情緒が滲む。
●《葡萄》
果実の瑞々しさと質感を静かに描いた静物画の傑作。まるで時が止まったかのような空気感があり、色調の抑制が洗練された印象を与える。
●《習作スケッチ群(フィレンツェ時代)》
デッサン力の確かさを示す写生や構図研究のスケッチ群。学習者としての誠実さと作家としての感性が共存する貴重な資料。
ラグーザ玉の作品は、戦前・戦後を通じて長らく「ラグーザの妻」としてしか認識されてきませんでしたが、21世紀に入ってからは「日本女性洋画の先駆者」としての評価が急速に進んでいます。
市場でも注目が集まりつつあり、とくに真筆の油彩画やフィレンツェ時代のデッサン・スケッチは希少価値が高く、近年のオークションでは数百万円単位の落札も報告されています。 今後も、女性表現史の観点からさらなる注目が予想されます。
現在、ラグーザ玉作品において高額査定の対象となるのは以下のようなケースです:
⚫︎ 明治期制作と確認できる真筆の油彩作品
⚫︎ フィレンツェ時代のデッサン、スケッチ、静物画
⚫︎ 展覧会出品歴、記録文献への掲載実績があるもの
⚫︎ 裏書、署名、来歴が明確で、保存状態の良好なもの
近年では、女性作家の市場再評価の文脈と連動して、国内外のコレクター・美術館からの需要が高まっています。
ラグーザ玉の作品には、明治という変革の時代にあって、女性が表現者として自らのまなざしを確立していった痕跡が刻まれています。
静かに、しかし確かな輪郭で人間と風景を描いた彼女の絵は、今なお私たちの心を打つ力を持っています。
彼女の作品を見つめることは、「洋画とは何か」ではなく、「描くとは誰にとっての行為なのか」という問いを私たちに突きつけるのです。
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