文展・帝展を支えた「写実とやわらかさの洋画家」
安宅安五郎(あたか やすごろう)は、大正から昭和にかけて、日本の公募展洋画界を牽引した実力派画家です。
明るい外光表現から始まり、次第に細密な写実表現へと移行しながらも、常に人間味とやわらかさを保ち続けたその画風は、多くの支持を集め、帝展・文展・日展の中核として活躍しました。
その筆は、時代の変遷とともに変化しながらも、常に“描かれる者”への誠実さに貫かれていました。
1883年4月23日、新潟市東堀通に生まれる。東京美術学校(現・東京藝術大学)西洋画科に入学し、藤島武二に師事。在学中より頭角を現し、文展に出品した《靴屋》が文部省に買い上げられる。
1910年に同校を卒業後も、文展や帝展への出品を続け、特に1919年(第1回帝展)の《白蓮樹》、翌年の《砂丘に立つ子供》では連続して特選を受賞し、高い評価を確立。
1921年には相馬其一とともに渡欧し、ヨーロッパ各地で研鑽を積む。帰国後は写実表現を深めつつ、帝展・文展・新文展・日展の審査員を歴任。
昭和期には明治神宮外苑の壁画《教育勅語下賜》を制作。晩年は日本文化代表団の一員として中国を訪問するなど、国際的活動にも携わった。
1960年、パーキンソン病のため77歳で逝去。
安宅の初期作品は、印象派の外光描写に影響を受けた明快な色調と筆致が特徴でしたが、ヨーロッパ留学以降は、より綿密で静謐な写実表現へと移行していきます。
特に人物画、とりわけ子どもを描いた作品においては、肌のやわらかさ、表情の内奥、背景の空気感に至るまで丁寧に描きこまれ、観る者の心にやさしく語りかけるものがあります。
風景や自然も題材としつつ、常に“人の気配”を描き出す画家として、明快で安定した構成力と静かな詩情を融合させた表現を確立しました。
●《靴屋》
東京美術学校在学中に制作された初期代表作。日常の労働風景を丁寧に捉え、文部省買い上げとなった出世作。
●《白蓮樹》
1919年、第1回帝展出品作。明快な色彩と構成美に優れ、安宅の名を広めた記念碑的作品。
●《砂丘に立つ子供》
翌年の帝展出品作で特選受賞。人物の存在感と砂丘の空気感を柔らかに描き出す。
●《浜の娘》
成熟期の代表作。写実的でありながら、人物の情感と自然との調和が印象的な一作。
安宅安五郎の作品は、公募展洋画の正統を体現するものとして、現在も根強い支持を受けています。
特に帝展特選作品や記録のある代表作、子どもや女性を描いた人物画は高く評価される傾向にあります。
⚫︎油彩人物画(50号前後):300万〜800万円前後
⚫︎初期の文展・帝展出品作は1,000万円超の評価も
⚫︎素描・スケッチ類も来歴次第で数十万〜数百万円台で取引されることもあり
写実の丁寧さ、構成力、そして美術史的位置づけにより、教育機関や美術館からの収蔵対象としても需要があります。
市場では以下のような条件を満たす作品が特に注目されています。
⚫︎帝展・文展・日展など記録が残る公式出品作
⚫︎人物画(特に子ども)や日常風景を描いた完成度の高い作品
⚫︎ヨーロッパ遊学期(1921年〜)の写生や油彩小品
⚫︎来歴・鑑定情報が明確な作品(公的コレクション出典含む)
また、教育関係や新潟県ゆかりの作品は、地域性からのニーズも高い傾向があります。
安宅安五郎の絵には、時代と正面から向き合った誠実な眼差しがあります。
流派に偏らず、柔らかな感性と確かな技術をもって、“人を描く”ことを問い続けたその姿勢は、まさに日本近代洋画の「礎」とも言えるでしょう。
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