嶋本昭三(しまもと しょうぞう)は、「具体美術協会」の創設期から中心的に活躍し、ペインティングを超えた“行為そのもの”をアートに昇華させた先駆的な美術家です。
彼の代名詞は、キャンバスにインクや塗料を詰めたガラス瓶を投げつけるという衝撃的な手法。1950年代当時、日本はもちろん、世界的にも類を見ない“絵画破壊行為”を通して、アートと肉体、瞬間、偶然をつなげる独創的な実践を貫きました。
時にアナーキー、時にユーモラス、時に哲学的。嶋本昭三の芸術は、言葉にならない「なぜだか、すごい」にあふれています。
1928年、大阪に生まれた嶋本は、関西学院大学で文学を学ぶかたわら美術に傾倒。1954年、吉原治良に出会い、具体美術協会の創設メンバーとして参加。
1955年の「第1回具体美術展」で早くも「瓶投げ作品」を発表し、観客の度肝を抜きました。以後、嶋本は“絵を描かない絵画”の実験を繰り返し、ヨーロッパやアメリカでも高く評価されるようになります。
60年代以降は、イタリアの前衛集団「Mail Art(メールアート)」との交流やパフォーマンス活動にも力を注ぎ、80年代以降は“青”の単色絵画シリーズ《青の世界》を継続。まさに「行為から思想へ、思想から美学へ」を貫いたアーティストでした。
2013年に死去するまで、「具体の精神を語り継ぐ男」として国内外で精力的に活動しました。
《作品(瓶投げ)》1955〜1960年代
キャンバスにインク入りの瓶を叩きつけて割ることで生まれる飛沫と亀裂。完全なる偶然と破壊の美。具体の代名詞とも言えるシリーズ。
《青の世界》1980〜2010年代
一面青に塗り込められた画面に、僅かな動きやマチエールが残る抽象シリーズ。晩年の嶋本の代表作であり、国内外の美術館コレクションに所蔵。
パフォーマンス記録作品(ドキュメント映像や写真)
「瓶投げ」「ライブペインティング」など、身体性と瞬間性を記録したアートドキュメントも高く評価される。
嶋本の芸術は、徹底して“アクション”に根ざしています。絵を描くのではなく、“描くという概念を壊す”ところから出発するのが彼の方法論です。
例えば
ガラス瓶を絵の具ごと投げて割る
ハンマーでキャンバスを叩き潰す
体全体を使ってインクをまき散らす
これらの行為は「絵を描く」というより「世界に痕跡を刻む」に近い。「偶然にしか生まれない形」が、嶋本にとっては最も純粋な“表現”でした。
そして晩年にたどりついたのが《青の世界》。一面青に塗られたキャンバスは、若き日のアクションを包み込むような静けさをまとい、「破壊と沈黙の詩」とも言うべき境地を見せています。
嶋本昭三の市場評価は、ここ10年で飛躍的に上昇しています。特に海外の具体再評価と合わせて、「行為の痕跡としての作品」が高く評価されるようになりました。
評価が高いジャンル
⚫︎1950年代〜60年代の瓶投げ・インクスプラッシュ系作品
⚫︎青の世界シリーズ(特にサイズが大きく、厚塗りのもの)
⚫︎パフォーマンス関連のドローイング、記録写真、映像資料
展覧会出品作・カタログ掲載作など記録が明確なもの
オークションでは、サイズや年代にもよりますが、数百万円〜1,000万円前後の落札例もあり、「今、もっとも評価が再燃している具体作家のひとり」と言えるでしょう。
嶋本の作品を買取査定するうえで、下記が重要な評価軸となります。
作品の年代(具体期のものほど希少)
表面の技法:瓶投げ・青の世界など代表的手法か
展覧会出品歴やギャラリー証明書の有無
作品背面のサイン・識別コードの有無
破損や剥落などのコンディション
また、嶋本作品は真贋判定も重要です。本人によるサインや特有のマチエールなど、“アクションの痕跡”を読み取れる専門性が求められます。
「これは本当に投げたのか?」と作品に聞くように、丁寧に見極めることが大切です。