篠田桃紅(しのだ・とうこう/1913–2021)は、100歳を超えてなお筆を握り続けた、日本の美術界の伝説的存在です。篠田は、伝統的な「書」の枠を超え、墨と余白のリズムで構成された独自の抽象表現を打ち立てました。
一見すると書道のように見えるその作品は、意味を持たない“非文字”の線と面によって構成されており、東洋の墨文化と西洋の抽象芸術を架橋する試みとして、国内外で高く評価されています。
とくに1950年代後半から60年代にかけては、ニューヨークの前衛芸術シーンでも注目を集め、ジャクソン・ポロックやマーク・ロスコといった抽象表現主義の作家たちと並び称されました。
1913年、旧満州に生まれる。のち東京で育ち、10代から書を学ぶ。
1940年代、文字を超えた抽象書に傾倒し、当時の書壇から距離を置く。
1956年、ニューヨークに渡り、MoMAをはじめとする現代美術の洗礼を受ける。以後、墨の抽象作品を発表。
1970年代以降、国内外の美術館・ギャラリーで個展を開催。著述活動も多数。
2015年『一〇三歳になってわかったこと』がベストセラーに。
2021年、107歳で逝去。
篠田桃紅の作品の魅力は、「墨」という限られた素材で無限の表現を生み出す点にあります。滲み、かすれ、余白、リズム。それらはすべてが意図され、しかも偶然性を孕んでいる。
《無題》シリーズ
黒とグレーの線と面、金銀の箔や和紙の質感を活かした抽象構成。作品ごとに詩のような静けさが漂う。
《Toki(時)》や《Kaze(風)》などの抽象題名作品
自然現象や時間の流れを墨の運動で視覚化したようなシリーズ。
版画作品(リトグラフ、木版、エッチング)
書ではなく、あくまで「アート」としての墨表現を追求。国内外のコレクターに人気がある。
彼女の作品は、「見る者の心象に墨が触れる」ような、静かな衝撃を持っています。見るた
「墨は、私の言葉であり、私の沈黙である」
篠田桃紅はそのように語っています。
篠田にとって、書とはもはや「文字を書く」行為ではなく、「時間を書く」「気配を書く」ことへと昇華されていました。
そのため、線は時にうねり、時に消え、時に爆発します。そこには女性であること、孤独であること、年齢を重ねることへの超越したまなざしが宿っています。
また、彼女の作品は「和紙」「墨」「余白」という極めて日本的な素材を用いながらも、西洋の抽象絵画に引けを取らないコンテンポラリー性を持っています。篠田桃紅は、日本から世界に“非言語のアート”を発信した先駆者なのです。
篠田桃紅の作品は、国内外で再評価が進み、近年その市場価値は大きく上昇しています。
墨の抽象作品(紙本/和紙):100万〜800万円
金箔・銀箔・箔入り大作:1000万〜2000万円
版画作品:30万〜150万円(エディション、状態により変動)
書作品(署名あり):50万〜200万円
小品・ミニマル作品:20万〜80万円
とくにニューヨーク時代の作品や、サイン付きの墨象画は、海外でも非常に人気があり、状態が良好であれば数千万円台に達するケースもあります。
共箱、制作年、真贋、展覧会出品歴、裏書の有無などが評価に影響します。
ご自宅に眠る一枚の墨絵や書。それが思わぬ価値を持っていることがあります。
⚫︎書 or 抽象墨絵かを見極める
⚫︎和紙や額装の状態をチェック
⚫︎制作年代(特に1950〜70年代)に注目
⚫︎サイン、落款、共箱の有無の確認
⚫︎美術館出品歴、画廊証明書などがあると高評価に
適切な査定を受けることで、文化的価値と経済的価値を正しく評価できます。