菅井汲(すがい・くみ/1919–1996)は、戦後日本の前衛美術界において、海外でいち早く評価された抽象画家のひとりです。神戸生まれの彼は、戦後間もなく渡仏し、1950年代のパリ前衛美術の中心で「記号」「標識」「運動」をテーマに独自の抽象表現を展開。鋭く洗練された線と色彩、そして構成力の高さは、国際的なモダンアートシーンで高く評価されました。
「東洋的精神」と「ヨーロッパ的理性」が出会った地点で生まれたのが、菅井汲の絵画と言っても過言ではありません。
1919年 兵庫県神戸市に生まれる。
広告デザインや装飾美術の仕事を経て、戦後本格的に絵画を志す。
1952年 渡仏。パリに定住し、サロン・ド・メの常連作家となる。
1950〜60年代 抽象表現からポップで記号的な画風に変化。
フランス、ドイツ、アメリカで多数の個展を開催。
1980年代以降 日本でも再評価が進み、神戸市立博物館などで大規模な回顧展が開催される。
1996年 パリで死去。
菅井汲の作品は、大きく3つの時期に分類されます
①【初期】重厚な抽象(1950年代前半)
黒、赤、青などの色を用いた力強い抽象画。アンフォルメルの影響が見られるが、独自の有機的構成が特徴。
②【中期】記号の絵画(1950年代後半〜60年代)
交通標識やアルファベット、道路のライン、都市の記号を大胆に抽象化。構成と配色に遊び心があり、欧州のポップアートとも呼応。
③【後期】洗練された記号と色彩(1970〜80年代)
グラフィカルでミニマルな構成、メタリックな色面や平面的なパターン。余白を活かした構造で、書と建築のような秩序が見られる。
代表作例
《SIGNAL》(1965)
《RUE》(1972)
《Mémoire》(1980年代)
そのどれもが、視覚と言語の“境界”を探る試みであり、都市と身体をつなぐ抽象詩のようでもあります。
菅井は、「抽象」と「意味」のあいだを軽やかに飛び越える画家でした。彼の作品には、ルールがあるようでなく、ないようである。その曖昧さが「記号の迷宮」へと私たちを誘います。
とくに、彼が好んで用いた「交通標識」や「矢印」「道路線」などは、都市に生きる人間の無意識的な動きを象徴し、現代社会における秩序と自由のジレンマを映し出しています。
また、彼の色使いは驚くほどモダンで、現在のグラフィックデザインやストリートアートにも通じる感覚があります。60年代のポップアートの潮流とも共振しつつ、東洋的静謐さを併せ持つ、まさに“二重構造の美”です。
近年、菅井汲の作品は国内外で再評価が進んでおり、国際的なオークションでも注目されています。
油彩作品(大型/代表作):500万〜3000万円
油彩(小品、20〜40号):100万〜800万円
シルクスクリーンやリトグラフ:10万〜60万円(エディション数と保存状態により変動)
ドローイング:30万〜150万円
署名付きポスター(初期):5万〜15万円
とくに、1960年代の記号的作品や、パリ時代の展覧会出品作は高額で取引されています。また、共箱、個展カタログ掲載、証明書の有無も評価ポイントです。
海外でも美術館所蔵があり、コレクターの裾野は広がっています。
ご自宅に眠る一枚の抽象画。それが菅井汲の作品である可能性があります。
査定前にチェックしたいポイント
⚫︎「KUMI SUGAI」や「汲」のサイン、日付の有無
⚫︎キャンバス裏や額のラベルに展覧会名があるか
⚫︎エディションNo.付きの版画であるか(例:23/50など)
⚫︎パリ時代の画廊ラベル(スタドラー画廊など)が付属しているか
⚫︎保存状態(カビ、退色、紙の波打ちなど)
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