オノサト トシノブ(小野里利信/1912–1986)は、戦後日本の抽象絵画を代表する芸術家のひとりです。彼の作品は、幾何学的な構成と鮮やかな色彩、そしてオプ・アート的な視覚効果を特徴とします。
一見すると規則的な円の配列や直線の組み合わせで構成される彼の作品には、「論理的な構築性」と「詩的なリズム感」が共存しており、単なる装飾性を超えた“見ること”そのものへの挑戦が感じられます。
日本における純粋抽象絵画の先駆者として、国内外の美術界において独自のポジションを築きました。
オノサトは1912年、長野県佐久市に生まれ、1935年に川端画学校で学び始めたのち、戦前はシュルレアリスムに傾倒します。
終戦後はリアリズムから離れ、1950年代から本格的に幾何学的抽象へと転向。とりわけ1955年の「サンパウロ・ビエンナーレ」、1957年の「日本国際美術展」で注目され、以後、国内外の展覧会に出品を重ねました。
70年代以降は長野・茅野にアトリエを構え、ストイックに創作に取り組みながら、知的な抽象美術を深化させていきます。1986年に逝去。
今日では「日本のオプ・アートの先駆者」とも評され、再評価の機運が高まっています。
オノサト・トシノブの作品世界は、視覚の錯覚と秩序の美学に満ちています。
《無題(円の連鎖)》シリーズ
赤・青・黄・緑などの明快な色彩の円が等間隔で並び、視点によって動き出すような視覚効果を生む。
モーリス・エステーヴやブリジット・ライリーらのヨーロッパの動向とも共鳴しつつ、東洋的な沈黙も感じさせる。
《コンポジション》シリーズ(1950年代)
直線と色面の構成によって、モダニズム建築や音楽的構造を思わせる作品群。視覚的リズムが音のように響く。
版画作品(シルクスクリーン)
晩年はシルクスクリーンによる円構成の作品も多数制作。より洗練された構造と色彩の抽象美を実現。
オノサトの作品は、色彩理論と図形認識に基づいた知的アートでありながら、どこか遊び心と温かみが漂う点が魅力です。
オノサトはインタビューなどで「私の作品は一見すると規則正しく見えるが、よく見ると不規則である」と語っています。
この言葉こそ、彼の創作哲学を象徴しています。
見た目の秩序の中に“ズレ”や“ゆらぎ”を内包することで、作品は固定的な構図を拒み、見る者の感覚を揺さぶります。
これは、日本の伝統美術が持つ〈余白〉や〈間〉の美意識とも深く関係していると言えるでしょう。
また、「表現」や「感情」といった近代美術の中心概念を相対化し、見ることそのものを問う姿勢は、今日のミニマルアートやデジタルアートにも通じています。
オノサト作品の人気は年々上昇しており、特に2020年代以降は国内外で再評価の動きが進んでいます。
油彩・アクリル画:800万〜3000万円
大型キャンバス作品:3000万〜5000万円
ドローイング・水彩:100万〜500万円
シルクスクリーン:30万〜150万円
展覧会出品作・サイン入り:高評価がつきやすい
とくに《円構成》の代表作や、1960年代の初期幾何学作品は市場価値が高く、状態が良好であれば海外オークションで数千万規模の落札も珍しくありません。
保管状態や展覧会出品歴、出典の明確性が、査定の上で大きく影響します。
作品価値の高いオノサト・トシノブですが、真作とリトグラフ、プリントなどが混在しており、適切な査定が重要です。以下の点をご確認ください。
⚫︎技法:油彩/アクリルか、版画(シルクスクリーン)か
⚫︎サインの有無と様式(刷り込みか直筆か)
⚫︎制作年代とシリーズ(円構成、直線構成など)
⚫︎展覧会出品歴、カタログ掲載の有無
⚫︎購入ルート(画廊/百貨店/遺品など)
価値ある作品を、適切な専門家の手で査定することが、後悔のない売却の第一歩です。