松谷武判(まつたに・たけさだ)は、戦後日本の前衛芸術を代表する「具体美術協会」の第二世代として頭角を現し、ボンドや鉛筆といった身近な素材を用いた独自の手法で、国際的に高い評価を得てきた現代美術作家です。
官能的に膨らみ、垂れ落ちるボンドのレリーフ。その上に漆黒の鉛筆のストロークを重ねた作品は、「描く」と「構築する」のあわいに立ちながら、時間や身体の痕跡を可視化する試みとして、国内外で注目されてきました。
1960年代に具体展でデビューし、渡仏後は版画やインスタレーションにも表現領域を広げ、2017年ヴェネチア・ビエンナーレ、2019年ポンピドゥー・センター個展など、世界的な舞台で活躍。
現在もパリを拠点に精力的な制作を続け、87歳にして“流れ”のテーマをさらに深化させています。
1937年、大阪市阿倍野区に生まれる。
1951年、14歳で結核を発病し8年間療養。その間に日本画を学ぶ。
1959年、元永定正と出会い、具体美術協会に関心を持つ。
1963年、具体美術協会会員に推挙。グタイピナコテカで個展開催。
1966年、毎日美術コンクールで最優秀賞受賞、渡仏。アトリエ17で版画制作に取り組む。
1970年代、鉛筆と紙を中心とした制作に移行し、“黒”の表現を深化。
1980年代以降、インスタレーション、パフォーマンスも手がける。
2017年、ヴェネチア・ビエンナーレ正式出品。
2019年、パリ・ポンピドゥー・センターで個展開催。
2024年、東京オペラシティ アートギャラリーにて国内初の大規模回顧展開催。
松谷の表現は、素材との対話と、行為としての制作そのものに焦点をあてた「静かなる前衛」です。
絵の具でも彫刻でもない“ボンド”という工業素材を用いながら、人間の身体や時間を凝縮させたような作品は、具体の精神を受け継ぎながら、より内省的な方向へと展開されていきました。
● 有機的ボンドレリーフによる構築(1960年代〜)
ボンドの物質性に着目し、膨らみ・垂れ・沈みといった身体的運動を想起させるフォルムを画面に出現させた。具体第2世代の革新性を象徴する表現。
● 鉛筆の“黒”と時間の痕跡(1970年代)
鉛筆で紙を何層にも擦り込むように塗り込み、“描く”という行為そのものに立ち返る。黒の密度と反復が時間の流れと身体の記憶を象徴。
● “流れ”という普遍的テーマの展開(1980年代〜現在)
黒鉛のストロークやボンドの滴りを“流れ”として捉え、生命・記憶・宇宙の循環に接続。平面と立体、インスタレーションの間を往還する活動を続ける。
●グローバルな現代美術作家としての現在地
Hauser & Wirthに所属し、国際美術館での個展・常設展示も多数。日本の前衛美術を世界に接続する重要作家の一人として評価が定着している。
● 1960年代(具体期/ボンドレリーフの登場)
代表的展開:初期のボンド素材を用いた有機的レリーフ作品。具体展やグタイピナコテカで発表。
市場での見どころ:具体美術史の文脈における資料的・造形的価値が高く、早期の作品はコレクター人気が極めて高い。
● 1970〜1980年代(鉛筆・黒の深化)
代表的展開:黒鉛による重層的ストローク、版画やミクストメディア作品が展開。
市場での見どころ:黒の密度と時間性を備えた作品群は、国内外の現代美術ファンから支持を集め、評価が年々高まっている。
● 1990年代以降(流れと空間、国際展出品)
代表的展開:“流れ”シリーズを中心に、空間との関係性を意識した立体・平面・映像などを横断。
市場での見どころ:ヴェネチア・ビエンナーレ出品作や、ポンピドゥー収蔵作と関係性のある作品は高評価。Hauser & Wirth所属以降の作品群も注目度上昇。
松谷武判は、素材と身体、描くという行為そのものを通じて、絵画と彫刻の境界を揺るがしながら、戦後美術の最前線を走り続けてきた作家です。作品に刻まれた“黒”や“流れ”は、単なる造形ではなく、時間や感情の軌跡であり、見る者に「生きている素材」のような強度をもって訴えかけてきます。近年は、ヴェネチア・ビエンナーレ、ポンピドゥー・センターでの個展、Hauser & Wirth所属など、国際舞台での評価がますます高まっており、市場価値も過去最高水準に達しつつあります。
特に、具体期の初期作品や70年代の黒鉛シリーズ、そして大規模なインスタレーション作品は、収蔵・投資対象としても大きな関心を集めています。
ご所蔵の作品について、正確な価値を知り、次の世代へとつなげるための機会として、このタイミングをご活用いただければ幸いです。
“黒”と“流れ”の前衛表現を未来へ/松谷武判のご売却・ご相談承ります。